
総合格闘技誕生に向けた1ページ
新日本プロレスでの三年間の修行の最後、19才の時に、格闘技志向の強かった私は、アントニオ猪木会長に直接、「新日で新しい格闘技(今の総合格闘技)をやりませんか」と提案させていただいた事があります。その時、「お前を第一号の選手にする」と言われ、有頂天になっていたところへ、キックボクシングの方から、重い階級の選手を貸してくれ、という打診があり、私が選ばれたのです。
当時、キックのジムへ練習に行ってはいましたが、巡業や付き人の仕事があり、半年間で10回位しか通えておらず、基本しか習ってない頃の私でした。いきなりキックルールで、デビュー戦の相手が、何と全米一位の選手というのです。そもそもキックを習うためにジムへ通ったのではなく、それまで経験のなかった打撃技の中へ、どう組み技が入って行くかを知る為でした。
反則覚悟の、ひそかな試み
当時、総合のような物は何も無く、その戦い方も未知の時代です。
「お前を第一号の選手にする」と言われ、その気になっている私は、どうしても試したい事がありました。一流選手の打撃の中へ入れるのか、という事です。相手はレスリング経験もあり、申し分のないテスト相手だったのです。
しかし、キックのルールです。周りの関係者から、レフリーにまでも、「何でそんな無茶するんだ」と言われましたが、「投げて、頭から落とすしかないですよ」と布石を入れておきました。
普通の総合なら、組みつければ、倒して有利な体勢になり、三年間みっちり鍛えられた関節技を極めれば良いのですが、一か八かやる「投げ」で相手がダウンしてくれるしか、私に勝機は無いと考えました。テレビで放映される正式なキック(マーシャルアーツ)の試合で、反則をやるのは結構勇気がいる事です。試合は予想通り七回ダウンを奪われ判定負けとなりましたが、目的は達成できました。
なんと、何回も何回も相手に組みつくことが出来、何度も何度も投げる事が出来たのです。
おまけに、苦し紛れに相手の腕を極める大反則までやってしまい、いつのまにかアナウンサーも異種格闘技戦と間違えて実況していたくらいです。
最後は投げ過ぎてバテてしまい、ボーっとしているところへパンチをもらい、七回もダウンをして判定負けしますが、最後まで諦めず立ち続けた事に、猪木会長もジムの会長も皆、私の折れなかった気を褒めていただきました。実験も成功して、負け試合でも最高に大満足だったのです。
プロレスの威信をかけ、更なる鍛錬
しかし翌日、たった一人の人に、「だらしない」と言われたのです。悔しくて悔しくて、山に籠もってまでして、打撃技に傾倒していく事になるのです。
今ではそれは、タイガーマスクや総合格闘技誕生の大きな1ページだったと思い、大変感謝しています。もし当時、「異種格闘技だった」とか、「テストだった」などと言おうものなら、大変な事になる、と最近まで黙っていました。
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