前向きにトレーニングを
新設の総合格闘技選手、第一号にすると言われたものの、なぜか突然メキシコに遠征を命じられた私です。メキシコでの環境や、プロレスの試合数の多さなど、タフな生活にその夢も消えそうになっていました。それでも、ここは踏ん張りどころと、いつも通っていたウエイトジムに、サンドバッグを置く事を相談します。
当時、メキシコにキックや格闘技のジムはありませんでした。すると、責任者に「自分で設置するなら良い」と許可され、当時の武道ショップみたいな所で、空のサンドバッグを購入しました。中味は好みに応じて自分で入れろというものです。
サンドバッグの中身は砂？
ジムは確か４階でしたが、何と１００キロはある中身を入れて、一人で運びました。設置した時は、その重さに周りが驚いていました。しかし、すぐに私が一番ビックリする事になります。サンドバッグというから、本物の砂を入れてしまっていたのです。その昔、漫画で強い主人公が打つと、サンドバッグが破れ、ザーっと砂がこぼれ落ちるシーンを見たことがあり、私はすっかり信じていたのです(本来、中身は布などのボロ切れ)。いよいよ設置して、試し打ちをすることになりました。日本から来た空手家と思われている私です。皆の前でかっこ良く蹴ってみせました。ガシ！ という音がして、猛烈な痛みが足に走ります。どういう作用か知りませんが、砂はバッグにいっぱい詰めると、コンクリートの様に硬くなるのですね。しかし、ここは日本の空手家です。痛がるわけにはいきません。私は痛さを堪え、平気な顔を装い続けて打ちましたが、痛くてたまりません！
その後、少しだけ蹴って、「最高だ」と満足したフリをして、その場を離れました。以来、そのジムには行っていません。
お粗末なメキシコの建物
もう一つは、メキシコを離れる半年前。後にライバルとなる小林選手と、大御所の日本人選手で先輩の、浜田さんの家へ下宿します。小林選手もキックが得意で、二人で一階のガレージへ、サンドバッグを設置させてもらいます。
そのメキシコの家は三階建てでしたが、造りが石膏の様な物でした。今度はまともなサンドバッグでしたが、二人が蹴ると、取り付け部分がボロボロと剥がれて行き、何と三階建ての家全体が揺れるのです。浜田さんには怒られますが、蹴りの練習の方が大事です。気にせず蹴っていると、ついに家が崩れるくらいに揺れ始めました。二人で懸命に壁を押さえて揺れるのを止めます。私達はその場所につっかえ棒を添えて、二度と蹴りませんでした。
その後、一年が過ぎ、私がイギリスでファイトをしている頃、何も知らない浜田さんがガレージを掃除している時、何だこりゃ？ と、つっかえ棒を見つけ、外してしまいました、その後、何気なくサンドバッグにラリアットをした時です。壁が共鳴し合い、五分後に家が全壊したようです。全員無事だったのが幸いでしたね。(冗談です、実際は地震で倒壊したのです(笑)。…(笑)でもないか)
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