
新天地でのデビューに向けて
待望のイギリスへ行くために、フロリダのゴッチさん宅へ再度行きます。新日本の試合に来日していて、イギリスに戻るピート・ロバーツ選手と合流し、一緒にロンドンに行くという作戦です。(これが大変な助けになる事を、この時はまったく分かりませんでした)一週間でしたが、また厳しいトレーニングやレスリングの話をとことん受けます。ゴッチさんは練習もそうですが、完璧主義者で他のことも妥協を許しません。きっちりイギリスでの作戦を授けられるのでした。
リングネームは「リッキー・カワシ」。髪は短く、黒タイツで黒シューズ、普段の服装まで指定されていました。正に伝統のストロングスタイル!「お前たちの手で、プロレスを戻してくれ」とまで言われたのです。
入国トラブルと波乱の幕開け
いよいよピートさんが来てくれ、イギリスへ向けて出発です。ロンドンのヒースロー空港に到着して、いきなり波乱が起こりました。入国審査官とピートさんが言い争っているのです。「サトル、心配ない」と、私を安心させるために言ってくれるのですが、どうやら私の事で相当まずい事になってるのだと分かります。約二時間待たされてようやく入国出来たのでした。
嫌な予感のする入国でしたが、次の日にもっと嫌な思いをします。ロンドンのプロレス事務所にピートさんと行くと、椅子に座ったままでいるプロモーターが、険悪で嫌そうな顔です。ピートさんは何やら怒鳴って、怒りをあらわにしています。プロモーターが「何を今更日本人なんか」みたいな事を言っているのが聞き取れました。そこで昨日の入国の件が理解出来たのです。ようするに入国許可証等が準備されてなく、私は本当に厄介者だという事です。

実力を証明、そしてイギリスデビューへ
ラッキーだったのは事務所の裏にリングのある練習場があり、選手が一人いた事です。おそらくピートさんがプロモーターに、私の動きを見ろとでも言ったのでしょう、彼は渋々ついてきました。いきなりスパーリングをやらされた選手も驚いたでしょうが、もうこの時の私は、タイガーマスクの動きと殆ど変わりません。
しかし一番驚いたのは私でした。あの時程、人の変わりようを見た事がありません。プロモーターは、まるで印籠を見た代官のよう低姿勢になり、いきなり車を玄関に付け、格闘ショップに連れて行かれました。ブルース・リーの黄色いコスチュームと竹刀と鉢巻を渡され、これでリングに上がってくれと言うのです。しかも笑顔で、とか色々な注文もして来る始末でした。
名前はサミー・リーと言う名で……リッキー・カワシは……? ストロングスタイルは? 怒るぞゴッチさん!
イギリスでのデビューは、土曜の午後四時からのテレビ中継でした。あの黄色いコスチュームに鉢巻き、笑顔に竹刀、テレビでは「サミー・リー、カムフロム、トーキョウ・ジャパン」何ともむずがゆい!
若干22歳、訳のわからないまま、イギリスでの船出が始まります。
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