
新設タイトルへの出場話
イギリス滞在中、ダイナマイト・キッドとは、一、二回会っただけで、あまり記憶に残らないまま去って行きました。その時は……。
ある日、プロモーターから重要な話を切り出されます。新設の世界ミッドヘビー級タイトルを作り、その決定戦を、当時新しくオープンするウェンブリー・アリーナで行うという内容でした。
これまで最大の会場であったロイヤル・アルバートホールの二倍の大きさというのです。彼は社運をかけているようで、興奮ぎみに話しかけて来たのでした。この階級では、ダイナマイトがいない以上、私とマーク・ロコが勝ち抜くのはあたりまえと誰もが思っていて、プロモーターもその体で私に話して来たのです。
これから予選が始まるのだと気を引き締めていたところ、ロンドンの下宿先に日本から電話が入って来ました。何とあの新間さんからです。
恩師・新間寿という人
「メキシコへ二年間行って来い」、という指令の満期を過ぎ、その後私はイギリスへ渡り、既に一年を迎えようとしていました。実に三年ぶりに恩師の声を聞くことになります。猪木さんの右腕として、過激な仕掛人の異名を取る、敏腕な方です。当時、新日本プロレスでの重要な案件は、殆ど氏が受け持ち成功させていました。
モハメド・アリ戦の実質的な実現者で、試合後のアリ側からの請求額約90億円を、最終的にアリの後見人であるアメリカイスラム教のトップ、ハーバード・モハメッド氏の所へ一人で乗り込み、交渉の結果ゼロにしてもらったばかりか、おまけにアリのテーマ曲を猪木さんに使わせてもらう許可を得たり、アリの世界戦に招待を受けたりさせた張本人です。私にとっては、新日本へ入門させていただいた方で、氏がいなければプロレスラーになれていないのでは、と思います。

渋々承諾した日本帰国
さて、その電話の内容は、「タイガーマスクの映画を作るから、日本へ帰って来い」というものでした。(氏は機密を意識して、最初本音を言わなかったのです)
私は、「今、こちら(イギリス)で重要な試合があり、その予選もあって帰れない状況です」と必死でお断りしました。そこから、新間さんから毎日のように電話があります。私がロンドンにいる
時は必ず受けていました。一ヶ月もした頃、とうとう内容が変わったのです。
「実は、タイガーマスクを蔵前国技館で出すという発表を、既にしたんだ」「だから、お前が帰って来なければ、猪木の顔を潰す事になる」私への殺し文句に仕方なく、「では…帰ります」と告げました。
その話をプロモーターにすると、本当に困った顔をし、見ていられませんでした。一試合だけしてイギリスへ戻って来る、と告げると、ようやく納
得してくれたのですが、予選の辻褄があいません。また、はったりかも知れませんが、私との交渉時に税金がどうのこうの言われたのが、気になって新間さんに話したところ、当時の総理大臣
の事務所へ連絡を入れ、難なく私を出国させたのでした。
三年ぶり、久々の日本。心配なのは、「新日本プロレスの軸であるストロングスタイルを侮辱するものではないか?」ということです。何だか訳の分からないまま、いよいよ日本へ帰ってきます。
「タイガーマスク」として……。
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