
先行きを案じつつ帰国
いよいよ三年ぶりに帰国するため(この時は一週間で戻って来ると思っていました)、ヒースロー空港へ向かいます。帰る嬉しさはありましたが、タイガーマスクで一試合をやれと言われても、新間さんの強い押しだけが頼りで、さっぱりイメージが出来ませんでした。
「どんな企画なのだろう?」「ストロングスタイルとタイガーマスク…? 会社的にもファン的にも大丈夫なのだろうか?」しかも相手はあのダイナマイト・キッド。「どういう試合になるのだろう? 初めてのマスクを着けて…」もう開き直ろう、と思うしかありませんでした。
この時、すでに三年間の修行を経て、大舞台には慣れている自信はありましたし、これでイギリスを離れるわけではないと、感傷的なものもありませんでした。この時は…。
大きくなる不安
長いフライトを終え、三年ぶりに成田空港に着いた時、迎えに来てくれたのは事務所の人が一人だけでした。ホテルに向かう車の中で今回の事を聞いても、全く分かっていません。
何だか不安がよぎります。都心に近づくと、車から見える三年ぶりの風景に、「何と東京は多くの家々が密集しているのだろう、メキシコやアメリカやイギリスとは、随分違うな。」と、
まるで初めて日本を訪れる外国人の気持ちになっていました。ホテルに着いて私の事を歓迎しているのは、新間さんだけだと気付きます。正体不明という立ち位置であるので、誰にも連絡は出来ませんし、当時、ファンにもよく知られたホテルだったので、外も自由に歩けません。ほぼ軟禁状態の私の所へ、次の日、新間さんがマスクを持って部屋に訪ねてきました。

拭えない違和感
「良いじゃないか!最高のマスクだろう」私を納得させるように満面の笑顔で、差し出されたマスクは、どう見てもシーツを張り合わせ、マジックで模様を書いた代物でした。
「そうですかねー?」疑問を抱く私に、「被ってみろよ」と、ちょっと不安を隠せない様子で、私に指図します。その顔を見て私はまた不安になります。実際、被ってみるとなかなか入らず、やっとの事で被ったマスクは圧迫感が凄く、目も小さく視界が狭められてしまう代物でした。
「こんなので試合をやるのか!」メキシコ遠征時でもマスクは被ったことはありませんでしたが、皆、こんなにきつい物を被って試合をしていたのかな?と、驚くと共に、メキシコで見たマスクとは随分違うなとも思っていました。
「良いじゃないか!」また新間さんが叫びますが、私は疑問を払拭できません。まあ、一試合だけやって早くイギリスへ帰ろうと、半分悲壮感を感じていたのです。「マントが当日、試合場に来るから、もっと凄くなるぞ!」
期待をさせる言葉の表現で私を鼓舞させます。何だか怪しい。いつもの新間さんじゃない!
昭和56年4月23日、蔵前国技館。門に入る手前でマスクを被り、会場の裏口から入っていきました。当然、誰にも判りません。私に用意されていた控室は、何と、掃除用具置き場の狭い部屋でした…。
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