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ハッピーバースデーを歌ったら著作権違反?

世界史雑談 ヒストリーサイドトリップ Vol.02
ハッピーバースデーを歌ったら著作権違反?
by 尾登 雄平
世界史雑談(ヒストリー サイド トリップ)

誕生日には必ず「♪ハッピーバースデー トゥーユー」で始まる歌を歌います。アメリカや日本だけでなく、割とどこの国でも歌われる、大変に普及した曲です。しかしこの歌は2015年までワーナー・ミュージック社に著作権があったのをご存じでしょうか。

もともとは幼稚園の「朝のご挨拶」の歌

元となった曲は、1893年にアメリカ、ケンタッキー州ルイビルで幼稚園を経営していたパティー・ヒルとミルドレッド・ヒルの姉妹が作った“Good Morning to All”という曲です。

Good morning to you,
good morning to you.
Good morning, dear children.
Good morning to all.

ヒル姉妹はこの曲を園児たちの朝の「おはようございます」の曲として作りました。その後園内で“Good Morning”を“Happy Birthday”に替えた替え歌が歌われ、家庭や他の幼稚園でも歌われるようになり、歌集にも掲載されました。

著作会社のドル箱に

1935年、歌に著作者名が書かれていないことに目をつけたサミー・カンパニーという会社が、プレストン・オレムとR.R.フォルマン夫人という人物二名を著作者として登録をし、著作料を取るようになりました。徴収の対象はビジネスにおいて使われた場合。例えば、レストランが客にケーキを出して歌う場合や、スーパーマーケットがBGMとして流す場合などです。1988年、サミー・カンパニーは大手レコード会社ワーナー・ミュージック社に2500万ドル(約32億円)で買収されました。当時“Happy Birthdayto You”は年間200万ドル(約2.5億円)の著作権料があり、そのすべてがワーナー・ミュージック社の収入となりました。まさにドル箱です。

著作権は有効かの裁判

ワーナー・ミュージック社は、初めて“Happy Birthday to You”が著作権登録されたのは1935年であるため、権利は2030年まで有効であると主張しました。音楽などの著作は95年間著作権が保護されるという「ソニー・ボノ著作権法」に則った主張です。

ワーナー・ミュージック社は”HappyBirthday to You”を公共の場で流したり、公演で歌ったりする場合は著作権料が発生し、支払わないのは違法だと主張しました。2010年には“Happy Birthday to You”を歌ったがために700ドルの支払いを命じられたケースもありました。

しかし、もはやパブリック・ドメインとも言える歌に著作権などあるのか? そもそも曲の著作者はヒル姉妹であって、1893年頃に出来た曲だからワーナー・ミュージック社が著作権を買い取った時点で権利は既に失効しているのではないか? など議論が噴出するようになりました。

アメリカの法律学者ロバート・ブラウニーズはこの問題を検証し、ワーナー・ミュージック社の著作権権利の主張は誤りと主張しました。これに対し、ワーナー・ミュージック社は名誉毀損や業務妨害を主張しロバートを相手どって裁判所に訴えました。

2015年9月、連邦裁判所はワーナー・ミュージック社の主張を無効であると宣言。ワーナー・ミュージック社が保有する著作権は特定のアレンジのみであり、歌詞やメロディーの著作権は既に失効しているとの判決を下しました。こうして“Happy Birthday to You”はパブリック・ドメインとなり、誰でも好きなように歌える歌となったのでした。

Writer’s Profile

尾登 雄平
尾登 雄平
ブログ「歴ログ-世界史関連ブログ-」や、YouTubeでの活動を中心に、面白い世界史のネタを集める。2022年11月、新著「働き方改革の人類史」(イースト・プレス)発売。

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