

母と共に銀閣寺に到着すると、敷地内にある小山状の場所に所狭しと植えられた楓の葉が、それはそれは見事に赤く染まっていました。またその一方、11月下旬という紅葉の季節の終焉を物語るかのように、次から次へと散り急いでもいたのです。
そこかしこに植えられた動かぬ楓の木々と、その木々から色鮮やかな深紅を保ったままにハラハラと絶え間なく散ってゆく葉たち。そこにはその「静」と「動」が織り成す調和が生む壮大な美しさだけでなく、散りゆく楓の儚さが見せる哀愁までもがあったのです。それはまるで、この世から隔離された”神秘の世界“に迷い込んだかのようでした。
気がつくと母が、少し離れたところで散り落ちた楓の葉を拾い集めていました。私と目が合い、「散ったばかりの綺麗なやつだけね」と言う母の言葉に、潔癖な母でさえもそんな気持ちにさせる紅葉の美しさを、改めて感じたものです。
それでも私は、気の変わりやすいところのある母のことだから、「拾い集めた楓もすぐに捨ててしまうんだろうな」と思っていました。けれど京都旅行から戻った一週間ほど後に実家に遊びに行った私に、母は「ほら見て。これこないだのよ」と、家計簿の間に大事そうに挟んであった楓を見せてくれたのです。その瞬間、あることを思いついた私は、母に頼んでその楓を2枚ほど譲り受けました。
さらに1週間後の週末、再び実家に戻った私は玄関先で母の好物のお饅頭が入った袋をお土産として手渡し、「着替えてくるね」とすぐに茶の間の奥の部屋に入りました。
すると程なくして、「あらー!」という母の甲高い声が響いたのです。飛んで行くと1枚の栞を手に、母が頬を紅潮させていました。それは私が母から譲り受けた楓の葉2枚の配置を考慮し、パウチ加工で仕上げたものでした。母の好物のお饅頭と一緒に袋に忍ばせておいたものを、いち早く母が見つけたのです。
「栞にしてくれたのねぇ……」。その笑顔を見られただけでもう充分。
「親孝行は親ではなく、自分のためにするもの」。私にそう教えてくれたのは、母の零れんばかりの笑顔でした。
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