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出会いと別れを思うとき

A Trip Down Memory Lane こころに残る四季折々の日本 Vol.08
出会いと別れを思うとき
by 加瀬 はる美

「春なのに〜お別れですか〜♪」

かつてアイドル歌手が、卒業式の日の出来事を唄ってヒットした曲の一節……。当時、高校三年生で卒業式を間近に控えていた私にとって、自分自身の境遇と物悲しい曲調とが相まって、思い出深い曲である。

とはいえ、私は高校の卒業式を迎えるまで、 ”卒業式で泣く“という経験は皆無だった。小・中学校ともに公立に通っていたため、小学校を卒業しても中学で同級生の顔ぶれがガラッと変わることはないと知っていた。

卒業

また、小学校の学区域とさほど変わらない公立中学を卒業しても、親しい友人とは会おうと思えばいつでも会える。そんな風に思っていたせいか、中学校の卒業式も、”大切な友人たちとの別れの時“という実感はわかず、涙を流すほど辛いことには思えなかったのだ。

ただし、高校の卒業式は違っていた。いくら自宅から近隣の都立高校に進学したとはいえ、高校の学区域は小・中学校のものに比べてかなり広い。実際、三人いた親友のうち二人は私と同じ自転車通学、もう一人は電車通学をしていた。それぞれの自宅間の距離も、卒業後、皆で揃って気安く会える距離とは言い難かった。

毎日必ず顔を合わせては同じクラスで同じ授業を受け、お昼になれば数個の机をくっ付けて一緒にお弁当を広げる。他愛もない話をしては皆で笑い転げ、誰かが辛い思いをすれば共に涙した彼女たち。そんな彼女たちとの楽しかった日々は、もうここで終わりなのかと思うと、卒業式では自然と涙が頬を伝った。

それでも嬉しいことに、彼女たちとの付き合いは高校卒業後もずっと続いた。お互い仕事の合間を縫っては集まり、皆で食事をし、時には泊りがけで旅行にも行った。四人のうちの誰かが結婚をしても、出産をしても、そしてまた海外で暮らすようになってもそれは変わらなかった。会えばいつでも皆高校生の頃の気持ちのまま、お互いの仕事や恋愛の悩みを打ち明け、楽しかった高校時代のエピソードを思い出しては、何度でも同じ話で笑い合った。

でも、年齢を重ねたある時、”確実に時間は流れていく“ことに気づかざるをえなくなった。親友のうちの一人が40代半ばで難病を発症し、二年の闘病の末に亡くなったのだ。言うまでもなく、高校を卒業する頃には想像すらしなかったことだ。お金では決して買うことのできない、何よりも大切な宝物を無くしてしまったような思いがした。

若かった高校時代、人生はある意味、まだ始まったばかりだった。けれど、人生を積み重ねていくうちに、それは出会いと別れの積み重ねなのだと気づく。そしてその別れの中には、本当は経験したくない永遠の別れがあることにも…。

現在、日本はまだコロナの時代をうまく抜け出せてはいない。また一方で、誰の人生にいつ何があるのかは誰にもわからない。

でもだからこそ、会いたいと思う大切な人には、お互いの健康を気遣いつつ、タイミングを逃さずに会っておくべきなのではないかとも思う。でもだからこそ、会いたいと思う大切な人。

Writer’s Profile

加瀬 はる美
加瀬 はる美
立教大学卒業後、大手広告代理店・制作会社で企業のPR誌、採用広報誌などの企画制作を担当。2016年、語学留学のためLAに渡米。2020年6月に帰国以降、これまでの経験を活かしたネットビジネスに従事する。

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加瀬 はる美

立教大学卒業後、大手広告代理店・制作会社で企業のPR誌、採用広報誌などの企画制作を担当。2016年、語学留学のためLAに渡米。2020年6月に帰国以降、これまでの経験を活かしたネットビジネスに従事する。