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世界に通ずる日本の慣習

A Trip Down Memory Lane こころに残る四季折々の日本 Vol.09
世界に通ずる日本の慣習
by 加瀬 はる美

日本人の心に、最も深く刻まれている花は桜だ。よく聞くこんな話を、たしかにそれは事実なのだと私自身が強く意識したきっかけは、なんといってもアメリカ、ロサンゼルスで暮らした数年間の生活だった。

約2年半前までの数年間、私は語学留学のためにロサンゼルスで暮らしていた。その際、はじめて渡米したタイミングは3月の下旬。つまりそれは、日本にいればもうすぐ桜が咲き、自作のお弁当など持ってどこかにお花見にでも出かけるという、まさにそんな時期だった。

そもそも4月上旬生まれの私にとって、桜は毎年誕生日を迎える頃には必ず咲いている、とても身近な存在だった。

けれど、ロサンゼルスに移住した途端、お花見に行かなくなったのはもちろんのこと、街のどこを歩いても、たとえ誕生日を迎えても、私が桜を目にすることは皆無になった。

そのことは私を、一枚のお気に入りのパズルの絵の重要な1ピースが、気が付くといつのまにか抜け落ちてしまっていた、といような、ひどく心細く、寂しいような気持ちにさせるのだった。

これが日本なら、自宅マンションのベランダからは、近隣の会社の駐車場の入り口に植えられた一本桜が、毎年見事な満開の桜の花を咲かせるのが見えた。また、自宅から徒歩3分圏内という近場には、東京の桜の名所の一つとして名高い、川沿いの桜並木もあった。

そのうえ、まさに犬も歩けば棒にあたる状態で、街中をほんの少し歩いただけで、小規模な公園にですらも数本の桜が咲き誇っているのに行き当たった。つまり、この時期の日本では、桜たちがその桜前線とともに、日本中を心華やぐ薄ピンク色に染めているのが当然だったのだ。

日本には数々の慣習があり、その中には日本古来の生活や風習を物語る素晴らしいものがいくつもある。そしてその中でも、「お花見」は桜の花を愛でながら皆で楽しく会食をするという、日本古来の何より素晴らしい慣習の一つではないかと私は思う。

外で食べる食事は、誰にとってもどうしてあんなにも美味しく感じられるものなのだろう? そこにかわいらしくも美しい薄ピンク色の桜の花の存在があれば、もう百人力。私が想像する限り、お花見はさほど親しい間柄でなければ、”初めましてのご挨拶“代わりに。そしてすでに親しい間柄なら、”その関係性をより深く、堅固にしてくれる方法“として、きっと役立ってくれるはずだ。

私には家族ぐるみでお付き合いのあるスイス人とフィリピン人のご夫妻がいるのだけれど、いつか彼らを桜の時期に日本に招待し、皆でお花見をする、というのが私の小さな夢でもある。

ピクニックという習慣を知る国の人々であれば、お花見という日本の素晴らしい慣習を理解し、おいしく楽しいひと時を分かちあってくれるに違いないと思うからだ。

私は少し気が早いのかもしれないけれど、四十歳を超えて以降、「私はあと何回、桜が見られるだろうか」と感慨にふけることが増えた。やはりそれほど、桜というのは日本人の心に深く根付いているものなのだろう。

Writer’s Profile

加瀬 はる美
加瀬 はる美
立教大学卒業後、大手広告代理店・制作会社で企業のPR誌、採用広報誌などの企画制作を担当。2016年、語学留学のためLAに渡米。2020年6月に帰国以降、これまでの経験を活かしたネットビジネスに従事する。

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