
テキサスから続く道のりを順繰り西へ。州を越えて辿り着いたのは、「アメリカの古都」「アメリカの宝石」などの異名で知られるサンタフェだ。州都サンタフェが古都と呼ばれる理由は、アメリカ建国よりも前の1607年から文化が根付き、「世界文化遺産のタオス・プエブロ」「織物の街チマヨ」「奇跡の砂の教会」「ジョージア・オキーフの愛したゴーストランチ」等が残っているからである。

その人口は約62000人。全米州都の中でも最も高い標高2000m以上に位置しており、これはコロラド州のデンバー1603mよりも高い。古都と言っても、ただ古いだけではないのもサンタフェの魅力だ。「サンタフェ・スタイル」と呼ばれる生活様式がまぎれもなく現代に呼応するカルチャーの輝きを放っている。
キャニオン・ロードに並ぶアートギャラリーには、この国を代表する、誇るべき宝が数多く収蔵されている。この輝きに惹かれた芸術家や富裕層が多く住んでいる街なのだ。
サンタフェのニューメキシコ州会議事堂のすぐ傍、サンタフェ・オールド・トレイル沿いにラ・フォンダ・オン・ザ・プラザ(La Fondaonthe Plaza)がある。ここは丸みを帯びた可愛らしくも勇ましさを感じるプエブロ様式(土・わら・水で作った日干し煉瓦を用いた建築様式)のモールとなっている。毎年夏にここで開催されるのが「サンタフェ・インディアン・トレード・フェア」だ。


プエブロ族の伝統的な炻器を販売するイベントなのだが、その歴史の始まりがまた厚く1922年にまでさかのぼる。ライト兄弟の弟子であったローズ・デュガンの操縦によってサンタフェに初めて航空機が飛んでからしばらくして、この飛行機に搭乗していたプロイセン貴族のヴェラ・フォン・ブルーメンタールがプエブロ族の焼き物や宝飾品を展示即売する取り組みを推進したのだ。その芸術的な取り組みが始まってから、2022年はちょうど100周年という記念すべき時を迎えた。今年、数日間は小雨の降る中でのフェア開催となったが、地元民や州外訪問客により、現地は大いに賑わった。
サンタフェまで来たのなら、映画ファンであれば欠かせない近郊の街にも足を踏み入れておきたい。ラ・フォンダ・オン・ザ・プラザから北上して約1時間半の場所にタオスがある。ロッキー山脈の麓にあり、海抜は7500m。大気が澄み渡った心地の良い街だ。ここはデニス・ホッパー、ジャック・ニコルソン主演の名作映画、アメリカン・ニューシネマ時代の代表作として知られる『イージーライダー』のロケ地として知られている。映画界に名を刻んだ偉大な俳優デニス・ホッパーは、2010年5月に亡くなる前に「私が他界したら、タオスに埋葬して欲しい」と遺言を家族に伝えた。彼はこの地に神秘と畏怖を覚えていたと言う。彼の魂は静かにタオスに眠っている。
サンタフェで手に入れた小さなリストラ(赤唐辛子房で作る伝統的な魔除け)をフロントミラーに取り付けた。さて、また西へと針路を取ろう。次はアリゾナ州だ。
※現在は、取材当時と状況が異なる場合がありますので、現地へ行かれる際は各自で最新情報の確認をお願いします。
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