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江戸宿場と努力の偉人を訪ねて[福島県]

旅のちから Vol.01
江戸宿場と努力の偉人を訪ねて[福島県]
by 近藤 祥紀
旅のちから

旅には人を成長させる発見と閃きのちからがある。Google Earthで世界中のあらゆる場所を覗き見ることが出来る時代だが、実際に現地に足を踏み入れ、目で見て、耳で聴く、その経験値の大きさは計り知れないところだ。ダライ・ラマ14世もこう言っている。「1年に1度は、これまであなたが行ったことのない場所に行くようにしなさい」と。

そんな旅のちからを感じるべく、今回私が足を向けたのは福島県の大内宿だ。この大内宿は江戸時代に会津と日光を結ぶ会津西街道の宿場町として栄えた歴史がある。参勤交代でにぎわった当時の茅葺屋根の民家がズラリと並ぶ風景を目にすると、まるで時間旅行でもしているかのような感覚をいだく。この民家の中には昔ながらの囲炉裏が残っている。そのサスティナブルな暖房・調理設備は今もなお現地の生活を支えている。

樹齢800年という大杉がある高倉神社の鳥居を仰ぎみてから、昼食に大内宿三澤屋の高遠そばをいただく。囲炉裏端での食事という和空間にいるだけでも心が熱くなるが、それと同時にねぎを箸代わりにしてそばを食べる「ねぎそばスタイル」に興味が湧く。大内宿でお馴染みとなったこの「ねぎそばスタイル」はこちらの店舗が発祥なのだという。大内宿では他にも黒米を使った「きんつば」、囲炉裏炭火焼きによる「イワナの塩焼き」など、彩りある豊かな郷土食の味わいを楽しめる。

少し先の季節になるが、この大内宿では「雪まつり」のイベントも有名だ。例年2月上旬頃に開催される冬のイベントであり、時代風俗仮装大会などが行われる。夜の白銀世界、灯篭につけられる「御神火」は艶やかな光景でありながら、どこか神秘的な畏れも感じる。

続いて、私は次の目的地へと向かった。大内宿から自動車を北東へ1時間半ほど走らせた先にある「野口英世記念館」である。感染症と向き合い、命を賭して戦い続けた偉大な医学者・野口英世。その人は福島県耶麻郡猪苗代町(旧:三ッ和村)で生まれ、その生家を含めて現在記念館としての公開がなされている。彼を医学の道に導いた囲炉裏も館内にある。彼は1歳の時にこの囲炉裏に落ちて左手に大やけどを負ってから、全ての運命が決定づけられたのだ。その囲炉裏の事件から51年後、彼は数々の功績を残して多くの人々の命を救いながら、ガーナで研究中の黄熱病を患って命を落とした。

さらに車で南西に30分ほど、そこには野口英世青春館がある。手に大やけどを負った野口が手術を受けた「旧会陽医院」の建物だ。その1階にある喫茶店「會津壹番館」に入り、シックでゆったりとした空間を味わいながら自家焙煎コーヒーを口にする。まさにこの場所で野口は書生時代を過ごしていた。蔵づくりの洋館に偉人の働く姿が浮かぶ。

野口の持つキテレツな逸話の数々は、彼が聖人でないことを示している。しかし、彼が努力を惜しまなかった偉人であるのはまぎれもない事実だ。「誰よりも、3倍、4倍、5倍勉強する者、それが天才だ」。福島が生んだ偉人は、改めて現代人に継続努力の重要性を教えてくれる。

Writer’s Profile

近藤 祥紀
近藤 祥紀
上海・湘南で活動するライター/作家。大学時代、教育学を修めながらドストエフスキー文学とニーチェ哲学に没頭。その後に「ロボットの心」をテーマとした独自の論理学研究を推進。研究と執筆に邁進し、現在に至る。

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上海・湘南で活動するライター/作家。大学時代、教育学を修めながらドストエフスキー文学とニーチェ哲学に没頭。その後に「ロボットの心」をテーマとした独自の論理学研究を推進。研究と執筆に邁進し、現在に至る。