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渡米直後の相次ぐ洗礼、試練も楽しめるように

駐夫として暮らした米国 Vol.02
渡米直後の相次ぐ洗礼、試練も楽しめるように
by 小西一禎
駐夫として暮らした米国

 「えっ、荷物カートって、無料じゃない の??」。2017年1 2月1 0日。羽田から のロングフライトを終え、家族4人で ニューヨークJFK空港に降り立った。時 差と飛行時間が同じ1 4時間だったので、 出発とほぼ同じ時刻に到着したのを、子 どもはさぞかし不思議がり、機内で眠 れずフラフラだった私は「壊れたタイムマ シンに乗っていた」ような錯覚に陥った。

 

 無事に入国審査を終え、合計1 4個も のスーツケースと段ボールをピックアップ した私たち。最初の洗礼として待ち受 けたのは、まさかの有料カートだった。 カートは無料で、飲食店では水とおしぼ りがタダで出てくる国から、お金が大き な意味を持ち、チップが必要な国に来た 現実を、いきなり痛感させられた。確か、 1台6ドルぐらいだったろうか。カート2 台に荷物を載せ、クルマに積み込み、賃貸 契約を済ませていたニュージャージーの自 宅近くのホテルに向かった。

 

羽田出発

 翌日からは、SSNの取得や銀行口座の開設、在留届提出に学校の手続き、Wi-Fi 工事や家具の購入・レンタルなどを矢継ぎ早に済まさなくてはいけない。クリスマス休暇、ホリデーシーズンが間近に迫っており、米国人の労働意欲が著しく低下すると事前に聞いていたからだ。

 

 渡米前まで暮らしていた東京と比べると格段に寒さ厳しい東海岸。この年は、1 0数年ぶりの大寒波が押し寄せ、日中でもマイナス1 0数度の日が続いた。昼夜逆転で時差ボケの子どもは、決まって午前3時に起きてくるため、親も寝不足気味。これに極寒が重なり、ただでさえイライラが募る中、輪をかけたのが、 応対する人によって大きく異なるサービス水準だった。

 

 全国どこでも、サービス教育がしっかりとマニュアル化され、公的・私的いずれのサービスも平準化されている日本。電車は常に定刻通りに運行され、1分遅れただけで、こちらが頼んでもいないのに鉄道会社が謝る。かたや、米国については改めて言及するまでもないだろう。

 セトルダウン初日のSSN申請から大きくつまずき、出直すこと3度。十分に書類を準備したはずの銀行では、要件 不備を指摘され、3行目でようやく開設できた。昼に訪れると言っていたWi-Fi 工事業者は、何ら悪びれることなく平然 と夕方に登場。苦情を言っても「何でそんなに怒るんだ」と怪訝な表情を浮かべ ていたのを、今もはっきりと覚えている。

 

 これとは別に、現金が足りなくなったのには肝を冷やした。教育費用の支払い は、現金か小切手のみで、クリスマス直前までの支払いを問答無用で求められた。小切手の発行は間に合わない。日本から持参した米ドルは、買い物であっという間に底をついた。両替とカードのキャッシング、日本からの送金で何とか米ドルをかき集めて、支払いを終えると一気に疲 れが出た。

 

 次々と立ちはだかった試練をかろうじ て乗り越えた後、物事が思い通りに進ま ないストレスを楽しめるようになるまで、 それほど時間がかからなかった。ただ、 まったく別のストレスが徐々に私をむしばみ始めていた。

Writer’s Profile

小西一禎
小西一禎
ジャーナリスト。慶應大卒。元共同通信社政治部記者。17年、妻の米国赴任に伴い休職、渡米。在米中退社。米コロンビア大客員研究員を歴任。各メディアへの寄稿・取材歴多数。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。
Twitter:chu__otto
Instagram:ponpyonpyon

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ジャーナリスト。慶應大卒。元共同通信社政治部記者。17年、妻の米国赴任に伴い休職、渡米。在米中退社。米コロンビア大客員研究員を歴任。各メディアへの寄稿・取材歴多数。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。