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「〇〇のパパ」に強いストレス。だったら自分で名乗ればいい

駐夫として暮らした米国 Vol.04
「〇〇のパパ」に強いストレス。だったら自分で名乗ればいい
by 小西一禎
駐夫として暮らした米国

「〇〇ちゃんのパパ(お父さん)」、「□□くんのパパ(お父さん)」、「小西パパ」、さらには「駐夫さん」・・・。

渡米してから、私が新たに得た「肩書」の数々である。これに「小西さん」を加えれば、在米中に呼ばれていた名前は、すべて網羅できる。日本では「小西さん」か「共同通信の小西さん」ぐらいだったので、随分と幅が広がったというか、レパートリーが増えたものだ。ただ、内実は嬉しいような、そうでもないような複雑な気分だった。渡航当初は。

クリスマスツリー
米国の農場で、クリスマスツリー用モミの木を伐採する筆者

頭の中で整合性を付け、キャリアが中断することに自らを納得させた上で決断した米国生活。渡米準備を本格化させようとしていた2017年の秋口、衆院が予想外に解散され総選挙に突入したため、政治記者の私は精神的にも物理的にも大わらわとなり、準備どころではなくなった。衆院選が終わった10月下旬から、バタバタと準備を進めたが、かなり場当たり的だったのは否めない。要は、休職中の人生設計プランが、どことなく生煮えだったのだ。

自己の喪失、いわゆる「アイデンティティー・クライシス」は、実に厄介な存在で、新生活を始めてから、脳内に四六時中まとわりついた。本名で呼ばれることなく、あくまでも中心は子ども。その従属物的に見られることに対し、心中は穏やかでなく、聞き流せない時もあった。相手には悪意がなく、それが余計にイライラを招く。渡米前、保育園の付き合いは、ほぼ妻に任せていたため、他人からパパ呼ばわりされるのに不慣れだったということもあった。

準備・リサーチ不足がたたり、スタートダッシュでの居場所立ち上げに失敗した。最前線で働いていた自分の姿は、日に日に昔のものとなり、父親業に徹する時間ばかりが積み重なる。妻は会社、子どもは幼稚園と世界をどんどん広げていく一方、私の交友は幼稚園の関係者、保護者だけにとどまった。幸いにして当時、ニューヨークに10人ほどの知人・友人がいたが、政治記者としての仕事上で知り合った人ばかり。当たり前のように仕事の話になった際、何とか無理やり話を合わせることに、かなり疲れたのを思い出す。

「自分はどこに行ってしまったのか」。認知的不協和が生じ、強いストレスがかかるようになった。そんな時だったか、幼稚園のボスママ(失礼)から「みんな、子どもに危害がないよう、ママを演じているだけなんだから。パパは珍しいんだから、気にしなくて良いんじゃない」とハッとさせられる言葉をもらった。恐らく見かねたのだろう。

だったら、自分が何者なのか、堂々と名乗れる場を作ればいいじゃないか。駐夫が誕生した瞬間だった。ブログを立ち上げ、本稿も含めて各メディアで発信する機会を頂戴し、取材する側から取材される側にも転じる貴重な経験も得られた。人生面白いものだ。ちなみに、「〇〇さんのご主人」と呼ばれることは最後までなかったが、これは最高に受け入れられなかったと思う。やはり、昭和の男なのだろう。

Writer’s Profile

小西一禎
小西一禎
ジャーナリスト。慶應大卒。元共同通信社政治部記者。17年、妻の米国赴任に伴い休職、渡米。在米中退社。米コロンビア大客員研究員を歴任。各メディアへの寄稿・取材歴多数。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。
Twitter:chu__otto
Instagram:ponpyonpyon

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