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相対化し、客観視する。日本を離れて一番良かったことは?

駐夫として暮らした米国 Vol.05
相対化し、客観視する。日本を離れて一番良かったことは?
by 小西一禎
駐夫として暮らした米国

あけましておめでとうございます。

さて、月日の流れは早いもので、この春で帰国してから2年が経とうとしている。米国で暮らしてみて、何が一番良かったか。何を吸収したのか。米国在住中、一時帰国時、本帰国後と周囲からお約束の如く、何度も尋ねられたものだ。慣れ親しんだ日本で生活している今も、意図的に思い返すよう肝に銘じている。

私の場合、大きく分けて以下の3つだろうか。
日本以外で初めて年単位で生活することになり、日本と米国を相対化し、日本を客観視できるようになったこと
自らが、外国人かつ駐夫というマイノリティーな存在となり、社会的弱者への目線を持ち、深い理解が可能になったこと
慣れるということは、自分を安心させてくれる反面、惰性に陥る恐ろしさを持ち合わせていると再認識したこと

渡米した時、私は45歳だった。生活を激変させ、新たなモノを受け入れるにあたり、かなりギリギリの年齢ではなかったか。それまでで最長の海外滞在は、欧米20カ国を回った大学卒業旅行の35日間。一緒に行った親友と一時険悪になったことを除くと、楽しい記憶しか残っていない。ただの旅行で、各国の事情を深く知ることなどできるはずがないのだ。
 駐在員家庭の三種の神器「住宅、クルマ、子どもの学校」を確保し、どっしり腰を据えて見聞きし、経験した「アメリカあるある」は、何もかもが驚きに満ち溢れていた。割り勘でカードを使えるスプリット、生卵は御法度、少しの距離でもクルマで移動などなど、暮らし面について語り出したらきりがないが、最も気になり、今も憂慮しているのは、相対的な日本の地位低下だった。

私が滞在していたエリアで、アジア系住民といえば、韓国人が圧倒的に存在感を放っていた。中国人が続き、日本人は3番目。バブル崩壊後の「失われた30年」に突入していようと、日本人が内向き志向になっていようと、G7の一角であり、「まだまだ日本は大国なのだ」という意識に浸かっていた身にとって、実に衝撃的だった。

街中を日本車が走り回っていても、日本人の存在は置き去りにされていた。日本のニュースが、全米で報じられることは殆どなく、中国、イラン、北朝鮮など、米国のリスク要因が高い国々ばかりが取り上げられていた。在籍していたニューヨークのコロンビア大学でも、中韓両国出身の学生ばかりが目立ち、日本通の教授は、日本人留学生数の低下を嘆いていた。

日本で生活していただけでは、決して見ることができなかった「新しい景色」が目前に広がっていた。物理的に長期間離れてみて、一歩も二歩も引いてみる機会に恵まれたことで、年齢的にも固まりつつあった世界観や価値観が粉々になり、脳内のグレートリセットにつながった。とはいえ、日本をディスるのではない。あらためて、日本が持つ長所、日本人が抱く美徳に誇りを持つ瞬間は何度もあった。

「2カ国じゃ、単なる比較です。3カ国に住むと、相対的から立体的になりますよ」。子どもがお世話になった先生の含蓄ある言葉が思い出される。紙幅が尽きたので、他の2つは次回で。

Writer’s Profile

小西一禎
小西一禎
ジャーナリスト。慶應大卒。元共同通信社政治部記者。17年、妻の米国赴任に伴い休職、渡米。在米中退社。米コロンビア大客員研究員を歴任。各メディアへの寄稿・取材歴多数。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。
Twitter:chu__otto
Instagram:ponpyonpyon

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