You are currently viewing マイノリティー中のマイノリティーになって何が見えた?

マイノリティー中のマイノリティーになって何が見えた?

駐夫として暮らした米国 Vol.06
マイノリティー中のマイノリティーになって何が見えた?
by 小西一禎
駐夫として暮らした米国

米国で暮らしてみて、何を吸収し、最も良かったことは何か?

前回(1月号)で挙げた3項目のうち、持ち越しとなった残る2つを引き続き紹介したい。2つ目は「自らが、外国人かつ駐夫というマイノリティーな存在となり、社会的弱者への目線を持ち、深い理解が可能になったこと」、3つ目が「慣れるということは、自分を安心させてくれる反面、惰性に陥る恐ろしさを持ち合わせていると再認識したこと」。

NYのブライアント・パークでスケートに興じる筆者と長女

さて、本連載のタイトルになっている「駐夫」は、まぎれもなく極めてレアであることは、あらためて言うまでもないだろう。世界中で市民権を得ている「駐妻」とは様相が大きく異なっている。ジェンダー平等に対する意識が根付いていない上、家父長制が依然として残る日本社会。男女の性的役割について「男は仕事、女は家事・育児と仕事」の考えが根強く、男女双方の生きづらさを助長する。

渡米してから通い始めた英会話スクールや地元図書館のESL、近所の人らに自己紹介をする度に「日本の会社を休職し、妻の赴任に同行してきた。毎日、料理をつくり、子どもと関わっている」などと伝えると、口を揃えて肯定してくれたのを今でも覚えている。

「素晴らしい経験になるに違いないわ」、「日本の企業は、そんな優れた制度があるのか」との反応が寄せられ、自分が下した決断に少しばかり誇らしくなったものだ。しかし、ある共通の特徴を持った人たちからは「昼間、何してるんですか」、「メシ、作ったりしてるんですか」などと怪訝な表情で尋ねられた。他ならぬ日本人、それも年配男性たちだった。

彼らは自らの妻が普段何をしているか、想像したことすらないのではなかろうか。あるいは、私のような男性が目の前に現れて、純粋な疑問から、そうした言葉を発したのか。わざわざ聞きもしなかったが、マジョリティーでなくなった自分を痛感させられた。米国在住アジア系、そのうちの日本人の中でも希有な立場、「マイノリティー中のマイノリティー」になった事実に直面して初めて、社会的に弱い階層に位置する人の気持ちを認識できた。実に得難い経験となった。

経験してみなければ分からないことが、世の中にはたくさんある。自分がその立場にならないと理解できないことも数多く実在する。その意味において、自身がマイノリティーになったからこそ、新たな視座が加わり、苦しむ人の境遇に思いを馳せられるようになった。

3つ目、慣れと惰性は紙一重の関係にあるということも、在米生活が思い出させてくれた。時差があり、言葉も文化も異なる生活に適応しようと懸命に日々を生き抜いた結果、遅かれ早かれ、いずれかの時点で慣れるタイミングが訪れる。物事が円滑に進むようになると、気持ちは落ち着く。一度安心を得ると、不安やリスクを排除しようとする。

いわば、非日常であるはずの異国暮らしが日常に転じ、全てが惰性化しかけていた。早めに気付けて良かったが、かけがえのない米国暮らしが、危うく、挑戦心なき空疎な時間になるところだった。

Writer’s Profile

小西一禎
小西一禎
ジャーナリスト。慶應大卒。元共同通信社政治部記者。17年、妻の米国赴任に伴い休職、渡米。在米中退社。米コロンビア大客員研究員を歴任。各メディアへの寄稿・取材歴多数。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。
Twitter:chu__otto
Instagram:ponpyonpyon

関連記事

ジャーナリスト小西は見た!

前回に引き続き、この春に都内の大学院で修士課程を無事修了したのにあたり、提出した修士論文「配偶者の海外赴任に同行した男性の意識変容とキャリア設計〜駐夫の帰国前後を中心事例として〜」について、取り上げたい。 駐夫経験者10 […]

漁師という生き方

漁師の仕事は夕暮れ前から始まる。日没が早い冬は、15時になると妻のサキが弁当づくりに取りかかるが、なにやら頭を抱えている。私の弁当のおかずを何にするか悩むのだという。 「昨日の残りでん入れときゃよかろうが。家にあるもんで […]

生粋Japanese ゆうの米国就職Tips

みなさん、AI使ってますか? 人工知能。まだの方は、今すぐ使った方がいいですよ。特に、対話型AIのChatGPTというAIが、今えらいことになっています。僕はChatGPTを使い始めて、アメリカ暮らしのストレスが大幅に軽 […]

生粋Japanese ゆうの米国就職Tips

私事ですが、この4月でアメリカに来て10年が経ってしまいました。駐在員として赴任してきた当初は、早ければ半年、長くても2年と言われていたのに、まさかこんなことになるとは笑。ということで今回は在米10周年を記念して、「アメ […]

漁師という生き方

九州南部のとある漁師町。県全体の7割もの漁獲量を誇り、天然の良港に恵まれた町がある。最寄りの駅からは、峠を越えて、くねくねしたリアス式海岸沿いの道を車で走らせること30分。穏やかな海に囲まれた漁港のそばで、何隻もの漁船が […]

ジャーナリスト小西は見た!

男性のキャリア中断が一般的ではない日本社会において、帰国後の駐夫はキャリアを再構築するにあたって、極めて不利な状況に置かれるのではないか――。 今春、帰国直後の2021年4月から通っていた都内の大学院で修士過程を修了した […]

生粋Japanese ゆうの米国就職Tips

本稿執筆時点では、米国テック業界ではいまだにレイオフの嵐が吹き荒れておりますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?何故かそんなレイオフ真っ最中の会社からも転職のお誘いが来たりして、世の中って不思議だなと思っています。外か […]

生粋Japanese ゆうの米国就職Tips

年に一度のアレの時期がやって来ましたね。アメリカで働く以上、避けては通れないアレ。そう、タックスリターンです。「タックスリターン? なにそれ美味しいの?」と戯言をのたまっているあなたは、駐在員様でしょうか? 僕にもそんな […]

生粋Japanese ゆうの米国就職Tips

みなさん、年末にアメリカで就職活動をしたことはありますか? 僕は(不本意ながら)あります! 今回は、いきなり結論から書いてしまいますが、「年末のホリデーシーズンにアメリカで就職活動するのは極力避けた方がいいよ」というお話 […]

おすすめ記事

日本語de不動産のプロに聞いてみました

自分のお家、借りるのと買うの、どっちがいいの?という話をしたいと思います。 賃貸の場合、家賃は物価の上昇と共に継続的にアップします。年間4%の上昇だと、10年で約1.5倍にもなります。コロナのインフレで、実際それ以上の値 […]

A Trip Down Memory Lane こころに残る四季折々の日本

パプリカの色の違いが気になったことはありませんか? パプリカが好きな方は、味の違いにも気がついていらっしゃるはず。ではどうしてこの色の違いが出てくるのか、味や栄養面も合わせて考えてみたいと思います。 *ピーマンとパプリカ […]

生粋Japanese ゆうの米国就職Tips

サンフランシスコに赴任して間もない頃。日本とアメリカの働き方の違いには、色々と戸惑うことも多かったです。中でもまず驚いたのが、「アメリカ人、全然残業しないな」ということでした。 僕が新卒で入ったのは、激務で有名な外資系コ […]

A Trip Down Memory Lane

「出〜たぁ、出〜たぁ、月が〜。まぁるい、まぁるい、まんまるい〜。盆のような月が〜」。 約50年前の9月のある日、「月」というこの曲を近所中に響き渡る大声で歌っていたのは、誰でもない、小学1年生の僕だった。普段の僕なら絶対 […]

私は、所属しているU.S. armyからの辞令で、テキサスにある基地に転勤となり、2020年に3年の予定でコロラド州のデンバーからテキサス州コーパスクリスティに越してきました。コーパスクリスティはテキサス州で8番目の都市 […]

新着記事

答えはこちら キケロのつぶやき アメリカでは . . . 5月も半ばになると、すぐそこまで来ている夏休みに胸をときめかせている人もいれば、夏休みなど遠い先のことだと感じている人もいるかもしれません。 と言っても、なにも「 […]

生粋Japanese ゆうの米国就職Tips

みなさん、AI使ってますか? 人工知能。まだの方は、今すぐ使った方がいいですよ。特に、対話型AIのChatGPTというAIが、今えらいことになっています。僕はChatGPTを使い始めて、アメリカ暮らしのストレスが大幅に軽 […]

お金がある=幸せ? コロナ禍による経済の低迷、その上に燃料費の高騰、物価の上昇、そして海外の銀行の破綻など…。“経済の不安のフルコース”と言わんばかりに、様々な出来事が世の中で起こっています。こんな時代だからこそ「お金と […]

クスリのいろは

アメリカでは区切りの5月、長い夏休みが始まりますね。日本のコロナ禍も落ち着き、久しぶりに一時帰国される方も多いと思います。今回は、日本で購入したい薬についてお伝えします。薬剤師の私が買ってくる薬、よかったら参考にされてく […]

何か言ってもなかなか聞いてくれない。そんなことないですか? 「使ったものは片付けて」「物を出しっぱなしにしないで」そんな日常的なことだけれども、毎回毎回言っていると親の方が疲れてしまうし、なんでわからないのだろう…と思う […]

お笑い芸人パックンのめっちゃポジティブになれるお悩み相談室

これは恋? それともセクハラ? 某州でコンサルの仕事をしています。未婚です。職場にいる20歳近く年齢が離れている後輩(アメリカ人男性)から告白めいた言葉を言われています。「僕は年上が好き」「コロナで出会いがない。出会った […]

まるごとレモンでビタミンチャージ! ビタミンCの代表選手とも言えるレモン。レモンの爽やかな酸味と香りは、お料理を引き立たせてくれるだけでなく、風邪の予防など健康に嬉しい栄養素も含まれています。レモンは色々なお料理に使える […]

スポートを物語る

by サイラス・リュウイチ・トラン サッカーは、多くの人に開かれたスポーツです。私は、プロサッカーチームのないハワイで生まれ育ちましたが、幼少の頃からボールを必死に追いかけて、プロサッカー選手になる夢を叶えました。そして […]

日本では最高に盛り上がったWBC。栗山監督のシナリオ通りに、侍ジャパンがスター軍団アメリカを見事に封じ込めて勝利となりました。携帯などを扱えない高齢者もテレビ前に集まり、視聴率もひさびさに爆上がり。 今回見ていて思ったの […]

魅せる女性の磨き方

物事には、敏感に反応したり、様々な場面で反応が早い方が良いとされていますよね。例えば、会社内で人より先に何かをするには、まずは気づくことが大切で、その気づきが早いと行動も早くなり、「気の利く人」「仕事のできる人」となるの […]

小西一禎

ジャーナリスト。慶應大卒。元共同通信社政治部記者。17年、妻の米国赴任に伴い休職、渡米。在米中退社。米コロンビア大客員研究員を歴任。各メディアへの寄稿・取材歴多数。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。