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波乱万丈!女子神職への道

女子神職マル秘日記 Vol.01
波乱万丈!女子神職への道
by 水谷はづき

私は今現在女子神職をしている。自らの意思で目指した訳ではなく、気付いたらなぜかそういうルートを歩いていたのだ。

始めは巫女として神社に奉職したが、宮司に「お前神職資格取ってこいや! そしたら踊りも拝みもどっちもできてお得やがな!」と言われ、お得な人材になるべく養成所に通うこととなった。

うちの宮司は神社という厳格な雰囲気に似つかわしくない豪快な性格をしており、夏場は従業員の前であろうがパンイチになって平気で涼むほどあけっぴろげな人間だ。それでもやり手として知られ、一度は別の神社から逃亡を図った私を「うちに来い」と拾ってくれた恩人でもある。拾って貰った恩を返すためにも役に立ちたいという思いがあり、資格の取得を提案された時も私に迷いはなかった。

養成所のクラスメートはほとんどが男性で、中年〜年配の人も多かった。神前作法の授業では何をするにも正座で、30分以上座ったままでいることもある。床はフローリングで座布団なしである。拝礼や授業が終わる度に、生まれたての子鹿のように立てなくなる年配者が続出したのは言うまでもない。

養成所では様々なルールがあり、食事の時も苦労した。毎日お弁当が配られるのだが、食べる時は一人でなるべく静かに食べるのがルールだ。日直が食前の挨拶の号令をかけ、そこからみんな黙々と食べ始める。食後の挨拶も日直が行うが、後ろを向いてはいけないため、周りの音を聞いて頃合いを見計らわなければならない。目安は年配のメンバー達がお茶を啜り始めたタイミングだ。年配者達はなぜかお茶を一口啜る度に「チッ」という音を立てる。教室のあちこちで舌打ちのような音が聞こえ始めたら、ほどなくして号令がかかるのだ。

しかし私は見てしまった。斜め前で静かに唐揚げにかじり付いていた男子が悲しそうにお弁当の蓋をそっと閉めるところを。そして唐揚げだけは何としてでも食べようと、顔を真っ赤にしながら口に詰め込んでいる姿を。

養成所では禊の授業もあった。禊では男性はふんどし、女性は白い作務衣のようなものを着る。そして頭に鉢巻を巻いて、水に入る前に鳥船という儀式を行う。立った状態でひたすらエアボート漕ぎをしながら、大声で和歌を歌うというちょっと恥ずかしい儀式だ。

また、雄健(おたけび)行事では、全員整列した状態で腰に手を当てて大声で言霊を飛ばす。仁王立ちしたお尻丸見えのふんどしマン達が、目の前でわけのわからない言葉を叫ぶ姿がシュールすぎて、私は笑いそうになるのを必死で堪えていた。仕舞いには遠くにいる観光客に存在がバレてしまい、人が集まってきたときは一刻も早く川に飛び込みたい気持ちになった。

その後は入水して祝詞をひたすら唱えるが、水場までの移動では駆け足必須であり、禊はなかなかハードである。ただでさえ、ふんどしを巻くことに慣れていない者が激しい運動をするため、儀式中にハミケツどころかとんでもないズレ方をしてしまう人も続出したのだった。こうして厳しくも面白い授業の中で奮闘した結果、私は無事神職としての一歩を踏み出したのである。

Writer’s Profile

水谷はづき
水谷はづき
巫女として神社の世界に足を踏み入れ、神職資格を取得し女子神職となる。神秘的なイメージの神社を身近に感じてもらうため、神社の意外な内部事情や神職ならではの変わった体験などをコミカルに発信していく。

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