
「男は人前で涙を見せるもんじゃない」、「〇〇は女の子だし、地元の短大で良いんじゃないの」。このような旧態依然とした会話が、今も日本のどこかで繰り広げられているのだろうか。
人々が潜在的に抱いている先入観や偏見、思い込みが、いつの間にか脳内にすり込まれ、固定観念や既成概念として刻まれるのが「アンコンシャスバイアス」(無意識のバイアス)だ。とりわけ、男女の性的役割を巡っては「男はこうあるべき」、「女はこうあるべき」と、バイアスが社会的・文化的・心理的な評価に大きく作用し、男女の地位や分担が知らず知らずのうちに決められてしまう。バイアスがジェンダー役割に関する考え方や価値観に影響を与える際、ジェンダーバイアスが表面化し、浮き彫りになる。

男性である家長が、家庭内で絶対的な権限を持つ家父長制が、一般的だった日本。家を継ぐ長男は、二男、三男らと異なり大事に育てられ、女性は家事や育児を全面的に担い、男らしさ、女らしさがことさら強調されてきた。正月の親族集まりなどで、男性は座って飲食に興じる一方、女性は台所に立ちっぱなしとの光景が疑問に思われ始めるようになったのは、つい最近のことだ。
駐夫に転じていた米国在住時、アンコンシャスバイアスに基づく他人の言動に幾度となく触れ、ジェンダーバイアスの根深さを痛感させられた。渡米直後、子どもが通っていた日系幼稚園の保護者会に参加した時のこと。保護者を「おうちの人」、「お父様、お母様」と表現する担任がいた一方、私がいるにもかかわらず「お母様方」と何度も繰り返す担任がいた。保護者会後、その担任に一言申し上げたのだが、指摘されて初めて気が付いたかのような、困惑した表情を浮かべていた。
日本に帰国してから参加した小学校の保護者会でも、担任が「各お母様方、順番に自己紹介してください」と述べていた。私以外にも父親はいたのだが、男性は参加していないはずとのバイアスがあったのか。あるいは、無視されたのか。いずれにせよ残念極まりない発言だ。
現地校で夜に開かれるバック・トゥー・スクール・ナイトには、夫婦揃って参加する保護者が数多くいて、かような表現を聞くことはなかった。普段から、学校の迎えに父親や祖父らが来ていることもあり、男性保護者と接するのは日常的なことに過ぎないのだろう。
「海外に駐在する夫に、妻が同行するのは当然」、「子持ちの母に駐在員は任せられない」など駐在に関するジェンダーバイアスは、少しずつだが過去の遺物になりつつある。私が主宰するグループ「世界に広がる駐夫・主夫友の会」のメンバーは130人を超え、女性駐在員は着実に増加していることを物語る。夫が海外に単身赴任し、妻は日本で仕事を続けるケース、その逆で、妻が単身で海外に赴き、夫が日本に残る事例もよく聞く。
バイアスは無意識に醸成されるため、自分で気付くのはなかなか難しい。欧米を中心とするグローバル企業は、バイアスは企業評価の妨げになるとして、排除しようと努めている。女性のみならず、時として、男性も苦しめるジェンダーバイアスが頭の中に蓄積されていないか。男女を問わず、各人が気付くことが大事だ。
Writer’s Profile

関連記事
60歳をこえると、少しの風邪が平気で長引くようになる。発熱と咳、なかなか治らんなぁと思っていたら軽い肺炎だった。少し体調が良くなったかと思えば、今度は集中豪雨。海がしけては漁に出られない。体調と天候の悪化がかぶると、漁師 […]
女子神職として初めての祭事で失態を犯してしまった私は、当日はさすがに落ち込んだものの、そこから心身ともに逞しく成長していった。ある意味初めに失敗したことで、もう恐れるものは何も無いという気持ちになったのだ。 そのうち祈祷 […]
今年の夏、ツイッターやインスタなどのSNSで、在米日本人の一時帰国を巡る投稿を頻繁に目にする。2020年のコロナ禍以後、海外在住邦人も例外なく入国後14日間の自主隔離を強いられ、日本の「鎖国」政策に苦しめられてきた。今回 […]
漁師の仕事で危険を感じる瞬間は、「死を予感させる」瞬間でもある。海の事故は大きく分けて2つだ。海が荒れたり、他の船と衝突したりして、自分が海に投げ出される”転落“と、網を巻き込む機械に挟まれる”巻き込み“だ。 船は大きく […]
みなさん、ハンディマンという職業をご存知でしょうか? アメリカで一軒家に住まわれている方にとっては恐らく頻出単語だと思います。ハンディマンとは、家周りの工事や修理などもろもろを引き受けてくれる、文字通り便利な人です。日本 […]
神社実習も無事に終わり、ついに拠点の神社に戻り女子神職デビューの日を迎える。歴代初の女子神職の誕生ということで、神社に新風が吹き込んだのはいいが、勤務先の神社には女子神職用の華やかな装束や飾りものなどは一切なかった。 本 […]
いずれは本帰国する日が訪れる駐在ファミリーにとって、楽しみの一つは旅行だろう。米国には、魅力的な観光地が星の数ほどある上、日本からは中々行きにくいエリアにも、米国からなら簡単に足を延ばせる。滞在期間が限られた、かけがえの […]
無事養成所での修了過程を終えると、階級に応じて指定神社実習を受ける場合がある。規模の大きい神社で実際に働きながら経験を積むのだ。実習を終えて宮司から判子を貰わなければ、免許の申請ができない仕組みになっている。私の実習先と […]
私は今現在女子神職をしている。自らの意思で目指した訳ではなく、気付いたらなぜかそういうルートを歩いていたのだ。 始めは巫女として神社に奉職したが、宮司に「お前神職資格取ってこいや! そしたら踊りも拝みもどっちもできてお得 […]
「男は人前で涙を見せるもんじゃない」、「〇〇は女の子だし、地元の短大で良いんじゃないの」。このような旧態依然とした会話が、今も日本のどこかで繰り広げられているのだろうか。 人々が潜在的に抱いている先入観や偏見、思い込みが […]
おすすめ記事
九州南部のとある漁師町。県全体の7割もの漁獲量を誇り、天然の良港に恵まれた町がある。最寄りの駅からは、峠を越えて、くねくねしたリアス式海岸沿いの道を車で走らせること30分。穏やかな海に囲まれた漁港のそばで、何隻もの漁船が […]
海外で暮らすと空気が読めなくなる…!? パックンに相談です。先日、5年間のアメリカ生活を終えて日本に帰国したのですが、海外生活が長かったせいか日本人特有の「空気を読む」ことが難しくなっています。会食中に「最後の一個残し」 […]
まるごとレモンでビタミンチャージ! ビタミンCの代表選手とも言えるレモン。レモンの爽やかな酸味と香りは、お料理を引き立たせてくれるだけでなく、風邪の予防など健康に嬉しい栄養素も含まれています。レモンは色々なお料理に使える […]
私は、所属しているU.S. armyからの辞令で、テキサスにある基地に転勤となり、2020年に3年の予定でコロラド州のデンバーからテキサス州コーパスクリスティに越してきました。コーパスクリスティはテキサス州で8番目の都市 […]
「頭金ゼロでも、利息が高いけど購入可能らしい」というのは本当ではありません。自宅購入の場合、頭金は最低3%必要。投資物件なら25%は欲しいところです。毎月の住宅ローンの支払いは、①元本と②利息、③固定資産税と④家の保険の […]
by サイラス・リュウイチ・トラン サッカーは、多くの人に開かれたスポーツです。私は、プロサッカーチームのないハワイで生まれ育ちましたが、幼少の頃からボールを必死に追いかけて、プロサッカー選手になる夢を叶えました。そして […]
新着記事
日本ではオレオレ詐欺などに代表される、電話を使った詐欺。アメリカにもいっぱいあります。むしろ頻度は米国の方が酷いかも?引っ越してきたばかりの頃は、状況が理解できず詐欺の被害に遭ってしまう方もいらっしゃるので注意が必要です […]
過日、ネットフリックスで『平家物語』のアニメを観たという知人の子供から「壇ノ浦ってどこにあるの?」と尋ねられて答えに窮した。歴史の散策探訪に興味があり、壇ノ浦合戦場の跡地にも実際に足を踏み入れている筆者がこれに即答できな […]
石田純一 1954年東京都生まれ。1972年NHKドラマでデビュー。80年代には、数々のトレンディードラマに出演し、絶大な人気を得る。ドラマや舞台、映画など多方面で活躍。2021年に始めたYouTubeチャンネル「じゅん […]
by ルーバル朋子 スペインの宣教師がカリフォルニアで最初のミッションを建てたことから、サンディエゴのオールドタウンはカリフォルニア生誕の地と呼ばれていることをご存知ですか? ミッションはカリフォルニアに21ヶ所建てられ […]
60歳をこえると、少しの風邪が平気で長引くようになる。発熱と咳、なかなか治らんなぁと思っていたら軽い肺炎だった。少し体調が良くなったかと思えば、今度は集中豪雨。海がしけては漁に出られない。体調と天候の悪化がかぶると、漁師 […]
女子神職として初めての祭事で失態を犯してしまった私は、当日はさすがに落ち込んだものの、そこから心身ともに逞しく成長していった。ある意味初めに失敗したことで、もう恐れるものは何も無いという気持ちになったのだ。 そのうち祈祷 […]
by Satsuki 仕事を辞めて駐在妻になる! そう決めたのは私自身なのに・・・ だんだん失っていく自信と自分に対するアイデンティティ。 これから先、私の人生はどうなるんだろう。 不安に押しつぶされそうになっていたのは […]
左右の絵では違うところが 10 個あります。全部見つけられるかな? 答え 問題に戻る
新型コロナウイルスは2023年現在、かつてのような深刻な脅威ではなくなっています。その理由の一つには、迅速なワクチンの開発があります。かつて多くの命を奪った病気を、ワクチンによって撲滅させた偉大な医学者を紹介します。 「 […]