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神秘に包まれる夜中の祭事!昭和を感じる神社実習

女子神職マル秘日記 Vol.02
神秘に包まれる夜中の祭事!昭和を感じる神社実習
by 水谷はづき

無事養成所での修了過程を終えると、階級に応じて指定神社実習を受ける場合がある。規模の大きい神社で実際に働きながら経験を積むのだ。実習を終えて宮司から判子を貰わなければ、免許の申請ができない仕組みになっている。私の実習先となったのは、厄除けで有名なとある神社だ。

偶然、実習期間中に「遷座祭(せんざさい)」という重要な祭事を控えており、私は当日に向けて、日々社殿の掃除などに勤しむこととなった。遷座祭とは伊勢神宮でいう式年遷宮に当たり、境内に新たな社殿を建てて御神体を移す儀式だ。お寺では「ご開帳」といって、ご本尊様が一般に公開される機会があるが、神社の場合、御神体は宮司しか目にすることは出来ない。そのため、宮司が御神体を運び出す際には布が被され、参道ではカーテンのように白布を持った祭員が宮司の姿を隠す。そして夜9時という真っ暗な時間に、松明の明かりだけを頼りに行われる厳重っぷりだ。一般の参拝者は目にすることが出来ない貴重な祭事である。

実習生は私一人だけであったものの、祭事に向けて様々な場所の掃除に励んだ。古い社殿の掃除は先輩神職が行っていたが、手作りマスクを装着していたのが印象的だった。神社で大切な場所の掃除をする際に付けるマスクは、美濃紙という強度の高い和紙と麻の緒で作られている。呼気が直接かからないようにするだけの効果しかなく、顔にフィットしないため埃の吸引を防ぐ効果は全くない。そのため、むせる人が続出していた。

いよいよ祭事当日。18時頃から祭事に参列する人たちが続々と境内に集まり始めた。神楽のために呼ばれた巫女達や伶人(れいじん)と呼ばれる雅楽隊の姿もあり、祭事の重要性を物語っている。特に伶人は金色の羽織を身につけており、とても煌びやかだった。伶人の使う楽器の中に笙(しょう)という竹の管楽器があるのだが、笙はとても繊細な楽器で温めなければ良い音が出ない。そのため、笙の吹き手の前には1台ずつ火鉢が置かれる。演奏の直前まで笙の吹き口付近を火鉢で温めておくためだ。現代社会において火鉢が必須アイテムである人間は、笙の吹き手くらいではないだろうか。

祭事は無事に終わったものの、実習では火鉢の件だけでなく昔にタイムスリップしたような出来事がたくさんあった。土間での炊き出しや、湯沸かし器がないとお湯の出ない水道、釜のような風呂蓋の五右衛門風呂や、見た目と重量の比率がおかしい鉛のような煎餅布団など、驚きのレトロアイテムが当たり前のように使われていたのだ。また食事はみんな揃って食卓を囲む会食形式であり、宮司は上座に座る。もちろん、宮司が手を付けるまで先に食べてはいけない。まるで亭主関白な父親のいる家庭の食事風景である。また神社では四つ足のものを食べてはいけないルールがあるため、粗食がますます昭和感を醸し出していた。洗った食器は干す場所がないため、すぐにふきんで拭いて片付けるのだが、このご時世で洗った皿を拭く家庭なんてサザエさん一家くらいしか思い付かない。

実習では重要な祭事はもちろん、擬似昭和生活という貴重な体験まで出来てしまった。

Writer’s Profile

水谷はづき
水谷はづき
巫女として神社の世界に足を踏み入れ、神職資格を取得し女子神職となる。神秘的なイメージの神社を身近に感じてもらうため、神社の意外な内部事情や神職ならではの変わった体験などをコミカルに発信していく。

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